Luz Coffee & Press

2026.05.07 / 商品紹介

ミ レガロ、という名前のこと

「Mi Regalo(ミ レガロ)」というスペイン語が、「私の贈り物」という意味だと知ったのは、つい先日のことだった。

ホンジュラスのインティブカ県、標高1,750メートルの山間で、イェシカ・ビクトリア・マンシアという女性が育てたコーヒー豆。父親から農園を譲り受けた2017年から、夫とふたりで5ヘクタールの土地を耕してきたという。完熟したチェリーだけを選んで、収穫したその日のうちにミルへ運ぶ。肥料は有機のものに限り、乾燥はソーラードーム型の機械でゆっくり25日間。決して特別な話ではないのかもしれない。けれど、そのひとつひとつを淡々と続けることが、どれほど骨の折れることか、毎朝コーヒーを淹れる側にいる人間にはなんとなく想像がつく。

カップに口をつけると、まず赤いリンゴのような明るさが立ち上がる。続いてストーンフルーツの果実感、中盤にふと枇杷の気配が顔を出して、最後にほのかな緑茶の余韻が残る。ひと口の中に四つの景色が同居しているのに、賑やかではなく、むしろ静か。「クリーン」という言葉では足りない、滑らかで透き通る口当たりが、ちょっと忘れがたい。

自分の育てたものに「贈り物」と名づける感覚が、僕は少し羨ましい。商売だと割り切ってしまえばそれまでだろう。けれど、彼女はきっと、子どもたちの教育のことや、いつか手に入れたい新しい精製設備のことを思い浮かべながら、毎朝チェリーの色を確かめているのだと思う。海を渡ってこの店のキャニスターに収まった豆は、たしかに彼女から、見知らぬ誰かへの贈り物としての顔をしている。

そして贈り物というものは、たいてい受け取る側にも何かを促す。本を一冊持ってきて、ゆっくりページをめくりながら飲むのもいい。窓辺の光に手をひたして、何も考えずにただ味わうのもいい。送り手の手間に、こちらの時間を少しだけ合わせてみる。それぐらいの応答が、この一杯にはよく似合う気がする。

ミ レガロ、ぜひ一度。

2026.03.12 / 商品紹介

【新豆】ルワンダから届いた、初めての顔。ダーウェ。🇷🇼

「ダーウェ」と声に出してみる。

呪文みたいだ。あるいは、アフリカの小さな村の夕暮れに響く歌のような。いずれにしても、一度聞いたら忘れにくい。

ルワンダ南部州、ギサガラ郡。標高1,630メートルの高地に、そのコーヒーウォッシングステーション(CWS)はある。今回が初の取り扱い。ルワンダのニュークロップ第一弾として、この豆が選ばれた。

なぜ選ばれたのか。一口飲めば、すぐにわかる。

このコーヒーは、急がない。

最初に来るのはドライアプリコットだ。干し杏子のような、甘くて少しざらついた、あの感触。無口で、黙って甘さだけ置いていく。

次にオレンジが来る。こいつはおしゃべりだ。急に明るくなる。晴れた日の午前中みたいに。

最後に、ほうじ茶とブラウンシュガーが静かに座る。

三人が順番を守って挨拶している、そんな一杯だ。

ダーウェCWSが面白いのは、コーヒーだけで完結しようとしていないところだ。

農場は6つの区画に分かれている。マンゴー、パイナップル、アボカド。そして牛舎。家畜を飼って、オーガニック肥料を自分たちで作る。地域の農家に開放する区画まである。

「持続可能なエコファーム」という言葉は、最近どこでも見かける。使い古されて、少し安っぽくなってしまった言葉でもある。でも、ダーウェがやっていることを見ると、これはただのキャッチコピーじゃないな、と思う。

昨年から操業を始めたばかりのCWSが、地域の礎になろうとしている。志がある。それは確かだ。

精製プロセスも、丁寧の一言に尽きる。

チェリーが持ち込まれると、まず重量を量り、フローティングタンクで浮力選別。パルパーで果肉を剥いで、6〜12時間のドライファーメンテーション。比重選別、手選別と続いて、ドライングテーブルへ。

ここからが、特に印象的だ。

30分ごとにスタッフがパーチメントを攪拌する。雨の日と、気温が上がりすぎる時間帯はビニールで覆って保護する。急激な乾燥も、乾燥ムラも、許さない。

手間がかかる。ものすごく。でも、そういうプロセスを経たコーヒーは、やっぱり違う。数字では説明しにくいけれど、カップに現れる。

飲み終わってから、もう一度「ダーウェ」と声に出してみた。

やっぱり呪文みたいだ。でも今度は、その意味がわかった気がした。

🇷🇼 Rwanda Dahwe

・生産地:ルワンダ 南部州 ギサガラ郡

・精製所:Dahwe WS

・標高:1,630m

・精製:ウォッシュド

・品種:ブルボン / RAB C15

**Light, Aroma, and a Cup.**

2026.03.01 / 商品紹介

『黄色い花と、マーマレードの帳尻合わせ』

「世界は、意外なほど精巧な歯車で回っている」 そう言ったのは、昔馴染みの時計職人だったか、あるいはどこかの小説の登場人物だったか。今となっては判然としない。 ただ、今朝の僕の目覚めが悪かったことと、窓の外で不機嫌そうに揺れている街路樹の枝には、おそらく何らかの因果関係がある。そんな気がしてならない。

人生には、どうしても「帳尻を合わせるための何か」が必要だ。 例えばそれは、読みかけのまま伏せられた本の続きだったり、昨日買い忘れた洗剤のストックだったりする。そして、今の僕にとってそれは、透明な光を孕んだ一杯のコーヒーだった。

キッチンに立ち、新しく届いたエチオピアの豆「ケルー シャンタウェネ」を挽く。 標高1,900メートルを越えるベンサ地区、シャンタウェネ村の赤褐色の土壌で育ったというその豆は、ミルの中で小気味良い音を立てて砕けていく。

お湯を注ぐと、豊かな柑橘の香りが立ち上がった。 それはまるで、朝の光を瓶詰めにし、そこに一滴だけ花の蜜を垂らしたような香りだ。

一口含む。 「凛としている」という表現が、これほど似合う液体も珍しい。やや硬さのある質感が背筋をすっと伸ばしてくれるが、その直後にやってくるマーマレードのような甘酸っぱさとレモンティーのニュアンスが、強張った肩の力をふんわりと解いていく。 不思議なものだ。上白糖のような穏やかな甘みへと移り変わる頃には、今朝の不機嫌な目覚めの理由なんて、もうどうでもいいことのように思えてくる。

このコーヒーを生産している「タリク・カレ」の人々は、高品質な豆を育てるだけでなく、その収益で地元の子供たちに学用品を贈ったり、雇用の場を作ったりしているという。 遠いエチオピアの地で誰かが誰かを助けようとする意志が、巡り巡って、今ここで僕の「一日」の帳尻を合わせている。 そう考えると、世界はやっぱり、案外悪くない仕組みで繋がっているらしい。

飲み終えたカップの底から、黄色い花の香りがかすかに漂った。 僕は読みかけの本を手に取り、窓辺に椅子を寄せる。 不機嫌な街路樹の枝も、今は少しだけ誇らしげに揺れているように見えた。


Luz Coffee & Press Specialty Coffee, Tea & Books 群馬県高崎市末広町33-1

2026.02.20 / 商品紹介

【新豆】「混ざらない」という美学。エルサルバドルの地下深くにある、孤独な奇跡。🇸🇻

【足元のドラマを見落としていないか?】

土地の良し悪しを語るとき、僕たちはつい「標高が高い」だとか「日当たりが良い」だとか、目に見える数字ばかりを気にしてしまう。 けれど、本当に重要なことは、得てして視界の外側、つまり地面の下で起きているものだ。

今日紹介するのは、エルサルバドル、チャラテナンゴ地方から届いた「ロクサニータ・パカマラ」。 このコーヒーが育った場所には、地質学者も首をかしげるような、少し変わった事情がある。

【頑固な土壌が守ったもの】

通常、激しい地殻変動が起きる山岳地帯では、地層というのは複雑に乱れ、混ざり合っているのが相場だ。 長い歴史の中で、他者と関わり、変化していく。それは人間社会も地層も変わらない。

けれど、ロクサニータ農園の土壌は違った。 ここには「層間剥離」が見られない。つまり、単一の土壌層が、誰とも混ざり合うことなく、どっしりとそこに居座っている。 まるで、流行り廃りに流されない頑固な職人のように、純粋で力強い養分だけを豆に送り続けてきたのだ。

1991年、内戦の傷跡が残るこの地を受け継いだ父親と、その意志を継ぐ息子イグナシオ・グティエレス。 彼らはこの「孤独な土壌」の価値を誰よりも理解し、対話を続けてきた。

【パカマラという名の巨人】

そんな純粋培養された土壌が育てたのが、「パカマラ」という品種だ。 コーヒー好きならご存知だろう。パカマラの豆はデカイ。文字通り、物理的に大きい。 その圧倒的な質量には、繊細で複雑なフレーバーがこれでもかと詰め込まれている。

【ピーチとショコラの共犯関係】

カップに口をつけると、まずはピーチアプリコットのような、瑞々しい果実感が飛び込んでくる。 「おや、フルーティーな新人か?」と思ったのも束の間、すぐに分厚く艶やかな口当たりが舌を支配する。

そして気がつけば、上質なチョコレートのような甘さと、カカオニブの香ばしさが鼻腔をくすぐっているのだ。 フルーツの仮面を被って近づいてきたかと思えば、去り際にはショコラの余韻を残していく。この「愛すべき二面性」に、僕たちはまんまと魅了されてしまうのだ。

【商品情報】

🇸🇻 ROXANITA PACAMARA – EL SALVADOR

・生産地:エルサルバドル チャラテナンゴ(Roxanita農園)

・生産者:イグナシオ・グティエレス (Ignacio Gutiérrez)

・標高:1,510m

・精製:Natural

・品種:Pacamara

この「単一の土壌」が生んだ複雑なレイヤーを、ぜひあなたの舌で解き明かしてみてほしい。 地面の下のドラマは、カップの中で完結する。

Light, Aroma, and a Cup. 見えないものを見ようとする時、コーヒーは最高の相棒になる。

2026.02.18 / 商品紹介

【新豆】三人寄れば文殊の知恵、あるいはハシント家の三兄弟。🇬🇹

【混ぜるな危険?いいえ、調和です】

世の中には「混ぜるな危険」という言葉があるけれど、コーヒーの世界においてそれは当てはまらないことが多い。 むしろ、混ぜることでしか生まれない調和というのが存在するらしい。

今日紹介したいのは、グアテマラのウエウェテナンゴ、オホ・デ・アグアという村から届いた「ファミリア ハシント」というコーヒーだ。

名前からして、どこかの由緒正しいマフィア映画のタイトルのようだけれど、安心してほしい。 これは善良なコーヒー農家、ハシント一家が作った傑作だ。

【半世紀続く、家族の物語】

1968年、ディエゴ・ハシントが種を蒔いたのが全ての始まり。 現在はフアン・ハシントがその意志を継ぎ、リーダーとして家族をまとめ上げている。

半世紀以上続くこの家族の物語には、実は頼もしい「三人の登場人物」がいる。 それが、このコーヒーを構成する三つの品種だ。

【キャスト紹介:個性派ぞろいの三兄弟】

もし彼らを映画のキャストに例えるなら、こんな感じだろうか。

1. ティピカ(Typica) コーヒーの原種であり、言わば「伝説の殺し屋」のような存在。 佇まいは透き通っていて、仕事はあくまでクリーン。余計な雑味を残さない。

2. ブルボン(Bourbon) 誰からも愛される人たらし。 甘みが強く、濃厚なコクで周囲を魅了する。チームのムードメーカーといったところか。

3. カトゥーラ(Caturra) ブルボンの変異種で、明るく快活な性格。 彼の放つフルーティーな酸味は、少し重たくなりそうな空気を一瞬で爽やかに変えてしまう。

【完全なる調和、その味わいは?】

この三人が手を組んだとき、単独行動では成し得なかった「完全な調和」が生まれる。

カップに注げば、まず洋ナシのような瑞々しい香りが鼻をくすぐる。 一口含めば、カシューナッツのような香ばしさが通り過ぎ、舌の上にはさらさらとした上品な質感が残る。

そして最後、エンドロールが流れる頃には。 紅茶の香りと上白糖の甘さが、静かに、でも確かに余韻として漂うのだ。

【日常に、上質のミステリーを】

LIGHT UP COFFEE が焙煎を手掛けたこの豆は、浅煎りでありながら、酸っぱいだけで終わるような単純なストーリーではない。 伏線が見事に回収されるミステリー小説のように、飲み干した後に「なるほど、そういうことか」と納得させられる一杯だ。

日常に少しのウィットと、上質な余韻を求めているなら、この「ファミリア ハシント」を試してみるといい。 きっと、退屈な朝の景色が少しだけ違って見えるはずだ。

【商品情報】

🇬🇹 Guatemala Familia Jacinto ・生産地:グアテマラ ウエウェテナンゴ(Ojo de Agua村) ・生産者:ハシント・ファミリー ・品種:カトゥーラ / ブルボン / ティピカ ・焙煎:LIGHT UP COFFEE

Light, Aroma, and a Cup. コーヒーカップの底には、まだ見ぬ物語が沈んでいるかもしれない。